夢見る少女じゃいられない

1.ある3人の女子高生
 美容室に行って一言「妻夫木聡にしてください」。随分ずけずけと希望を言えるようになった。でないと生きていけないのです社会では。おれは池脇千鶴が好きでハイウェイが好きで青春に飢えたりしているから妻夫木聡になりたい願望はまっとうな願望なのだ。理容師は一瞬たじろいたあと愛想を取り戻しておれを妻夫木聡にしてくれた。見事な腕である。
 妻夫木聡になったつもりで新宿の街を闊歩していると3人組の女子高生に話しかけられた。「ねえねえもしかして妻夫木聡じゃあないですか?」「そうだよ」「きゃあ、サインちょうだい、サインちょうだい。きゃあきゃあ。」女なんてちょろいもんである。
 おれがその場を去ろうとすると出し抜けに一番足の長い女が言った。「待って妻夫木さん、今からお相手してくれませんこと」「いいよ」

 こうしておれは女子高生3人組と×××で××の×××××をすることにした。おれの×××××にカナちゃんが唖然として×××××。たっぷり×××××チーズの×××××××。アキちゃん我慢できず自らマ××に××××を×××。その横でアミちゃん上着を脱ぎながら「××!もっと××××××ちょうだい!もっと!」×××の××に触発され大量に分泌された××で××××を××××に××しながらカナちゃん「ちょっとアミ、×××早すぎ!私も負けないから!」おれは××××を×××自らの××を刺激し徐々にスピードを上げて××を×××××。アミちゃんは殆ど絶叫して「もっと早く××××××××××!もっともっと!」「もう生で×××××××!」「もう××××!!!ああもう限界!!」おれは呻いて倒れこんだ。

 精魂つきた。ピザの大食い対決はこれだからいけない。
 3人組の女子高生は「あたしたちの胃袋は宇宙なんだからっ☆」などと言い捨てて去っていった。240枚分のピザ代はおれが払った。税込み32万とんで243円。2ヶ月分の給料。女を嘗めてはいけない。新宿にはこういうボーイミーツガールあるいはストリートファイトがあるから面白い。


2.答えあわせ
 ――こうしておれは女子高生3人組とピザ屋でピザの大食い対決をすることにした。おれの食べっぷりにカナちゃんが唖然として手を止める。たっぷり載せられたチーズのマルゲリータ。アキちゃん我慢できず自らマルゲにタバスコをかける。その横でアミちゃん上着を脱ぎながら「店長!もっとマルゲリータちょうだい!もっと!」チーズの香りに触発され大量に分泌された唾液で炭水化物をアミノ酸に分解しながらカナちゃん「ちょっとアミ、ペース早すぎ!私も負けないから!」おれはタバスコを掛けて自らの食欲を刺激し徐々にスピードを上げてピザを腹に入れる。アミちゃんは殆ど絶叫して「もっと早くピザ持ってきなさいよ!もっともっと!」「もう生で食べちゃうから!」「もう食えねえ!!!ああもう限界!!」おれは呻いて倒れこんだ。


3.後日談
 一番足の長い娘(=アミちゃん)とはその後もちょいちょいメールを続けている。つい昨日まで本当におれを妻夫木だと思っていたらしい。うはは。妻夫木がこんな馬鹿な誘いに乗るか馬鹿者。アミちゃんは馬鹿である。そこがまたかわいいのである。はっきり言ってアミちゃんとおれはラブラブである。来週末は初デートだ。またピザ屋に行こうと言われた。アミちゃん!こんどは負けないぜ!!


4.THE TSURAI
 20歳を越えた男にあるまじき情けない文章を書きましょう。
 アカペラエンターテイメント4の動画や写真を眺め、過去の出来事に耽り、呟くことには「この頃に戻りたい」。これは過去の出来事。これは過去の出来事なんです。寂しさ紛らわす手段として誰彼かまわず電話をかけふらふらと街へ出かけ柏木由紀に傾倒し上記のようなろくでもない日記を書き、を繰り返してきましたが、いよいよ今日、全てが、空しいものになってしまいました。
 ずっと寂しい思いをしてきました。相模原などという政令指定都市名ばかりのわけのわからない田舎へ単身で越してきて、周りに知る者はいない。客に上司に頭を下げ、連日の猛暑を必死に絶え、不味いコンビニ弁当を無理矢理腹に入れ、帰って寝て、起きれば朝。出勤。週末には浜松へ向かうがそれも寂しさを一時的に紛らわすだけで本質的な解消には至らず、あるいは寂しさを助長しているんではなかろうか、というところまで来たところで、アカペラエンターテイメント4の動画を見て、崩壊。堰をきって流る涙。寂しい。寂しいのです。

 ここで寂しさを吐露して同情の言葉をもらいたいのかと言えば、そう。まったくそのとおり。強がる気はなし。さらさらなし。うはは!コメント募集中!コメントくれくれ!お願いします誰かコメントを残していってください。よければ電話の一本寄越してください。


5.幸せの基準
 柏木由紀は好きです。でも柏木由紀はおれのことなんかちっともかまってくれやしないので、やっぱりおれは柏木由紀が好きじゃないんです。秋葉原ドンキホーテ柏木由紀の大きなポスターを見た瞬間、悟ってしまいました。彼女はやっぱりアイドルでした。
 テレビの前ではついつい、この笑顔はおれだけに見せているのだろうと、錯覚してしまうんです。しかしあの笑顔も、実は、大衆に向けられたものだったんです。ドンキホーテで、おれと同じような格好の3人の若者が、柏木由紀のポスターを見て、「ゆきりんマジかわいくね」などと話していました。あまりにショックでした。おれはこいつらと同じ大衆なのでした。おれはこいつらと同じ大衆なのでした。大衆!ああ大衆!否!大衆でもいい!おれは元気をもらっているから!やっぱりコメントいらない!さみしくなんかないもん!!


6.嘘つきの顛末
 アミちゃんとデート行くのは嘘。メールも嘘。ピザのくだりも嘘。つうか新宿行ったのも嘘。っていうのも嘘。ドンキホーテ行ったのも嘘。柏木由紀好きじゃないのも嘘。おれが妻夫木ってのもさすがに嘘。さみしくないってもの嘘。
 嘘つきって孤独だね。