ポリリズムとそれにまつわる私の哲学


 ポリリズムとは和訳すると複合拍子といいまして、拍の一致しない複数のリズムで同時に演奏されることによって生まれる独特のリズムのことを指します。例えばPerfumeポリリズム』の間奏部分では、基本となる4拍子の流れに「ポ・リ・リ・ズ・ム」という5つの音韻をそのまま5拍でのせ、ベースは3拍で、高域のシンセによるシーケンスで6拍を刻み、これらを繰り返すことにより面白みのある独特のリズムを作り出しているのです。

 Nという女性と私はそれぞれ違うリズムで人生を歩んでおり、それぞれがそれぞれの節目を刻みながら別々の生活をしているのですが、そのそれぞれの節目が、妙なタイミングで、ぱたり、と綺麗に一致することが三度ありました。それは振り返ってみるとおぞましい、寒気がするほどの一致で、私は、彼女とのポリリズムを感じずにはいられないのです。
 Nは小学校6年次に隣町の小学校へと転校していきました。おおむねの場合そこでNとの縁は途切れるはずなのですが、それから、腐れ縁という言葉がぴったりの再会を三度することになります。
 中学2年次、市内の中学のJRC委員代表が集い合同で募金活動を行うという(めんどうな)イベントがあったのですが、それが彼女との最初の再会の機会でした。私はNを見てNだとすぐに認識し「君って転校していったNだよね」と話しかけたのですがNは私のことをすぐには認識できなかったらしくそれは当然。ハードな部活により20キロも痩せた私に対してNが発した再会の第一声が「ああ、君ずいぶん痩せたね」だったエピソードは彼女のデリカシーのない性格を端的に表していましょう。
 時は流れ次に会ったのが大学受験の時です。彼女と同じ大学、同じ学部、同じ学科を受験し席が隣りあうということがありました。このとき声をかけてきたのはNのほうで私は彼女を認識できずそれも当然。彼女は昔の面影がないほど痩せており、ここで「ああ、君ずいぶん痩せたね」と発するほど私はデリカシーがないわけではなく「ああ、きれいになったね」と発するほどの甲斐性もやはり持ち合わせてはおらず「ああ、久しぶりだね元気だった?」と発するのが精一杯だったのは、彼女のぜい肉が落ち、目鼻立ちがくっきりとし、ずいぶんと美しくなっていたことが原因です。
 3度目は大学に入ってから(結局Nとは別々の大学に通うことになった)、富良野への旅行中に立ち寄ったサークルKでのことでした。Nも旅行中で偶然そこに立ち寄ったそうでそれはまさに驚愕すべき戦慄の偶然でした。このときはお互いにすぐには認識できずそれもそのはず、この日本の果ての極寒の偏狭の地で再会することになろうとは一体誰が予測しえたでしょう。互いに疑念を持っていたのか、5回も目をあわせたのち、まったく同時に「もしかして君、」とユニゾンしたのはあらゆるボーイミーツガールの物語に劣らぬありきたりなシーンでしたので、もはや笑うしかありません、ふたりでケタケタと笑いあい、結局、富良野サークルKで買ってきたのは、顰蹙だけでした。この3度目の再会の際、私はNの連絡先を知ることになります。

 ポリリズムでは、それぞれ違う拍子を刻んでいても、公倍数的にそれぞれの拍のあたまでぴたりと一致するときが必ず来ます。Nとの関係は、こうした拍の一致を何度か繰り返された後に展開していく曲を聴くようで、つまり私はこういうポリリズムを用いた曲を書いてみたいということなのです。

畜生、こんな美しいボーイミーツガールあってたまるかってんだ!
ポリリズムを用いたオリジナルソングを書いています。